説明より先に、1本の動画を置いておきます。長さは1分。イライラが止まらない夜、何かをやめたいのにやめられない波が来たときのために作りました。よかったら、いま再生して、画面の声に合わせて呼吸してみてください。
動画の中でやっているのは「4-7-8呼吸法」という、道具のいらないシンプルな方法です。
- はじめに、口から息をぜんぶ吐き切る
- 鼻から4秒かけて、静かに吸う
- 7秒止める
- 口から8秒かけて、細く長く吐く
- ここまでを3回
医療従事者としてひとこと添えると、秒数どおりにできなくても効果がなくなるわけではありません。「吸うより長く吐く」——守るのはそれだけで十分です。息を止めて苦しいときは秒数を減らして、ふらっとしたら座ってやりましょう。
お酒、タバコ、ギャンブル。「今すぐやりたい」という衝動の波は、実はピークがずっとは続きません。数分をどうやり過ごすかが勝負どころで、この1分の呼吸はそのための小さな避難所です。スマホに保存しておくと、波が来た瞬間にすぐ開けます。
この動画、カメラも編集ソフトも使っていません
ここからが今日の本題です。上の動画は、撮影ゼロ・編集ソフトゼロ・ぜんぶAIで作りました。登場する女性も、部屋も、ナレーションの声も、BGMも、この世に実在しません。
先に私のスペックを書いておくと——医療従事者です。動画制作の経験はなく、プログラミングもできません。それでも完成までいけたのは、作り方そのものをAIに聞きながら進めたからです。使ったツールの半分は、作り始めるまで名前も知りませんでした。
全体の流れ
ひとことで言うと、「AIと相談して設計図を作り、あとは指示文をコピペして、できた素材を最後にAIがつなぐ」——これだけです。5つの工程に分けてご紹介します。
最初の入力は「いっぷんの深呼吸動画を作りたい」という日本語の一文でした。相談相手はClaude Codeという、会話だけでなくパソコン上の作業まで代わりにやってくれるタイプのAIです。ここで決まったのは、①10秒×6場面の構成表、②各場面のナレーション文、③あとで画像生成AIに渡す英語の指示文(プロンプト)6本。窓辺で目を閉じる女性から始まり、最後に目を開けて微笑む——という流れも、この相談の中で固まりました。
画像作りはGrokの「Imagine」を使いました。ここで便利だったのがエージェント機能(AIにまとめて作業を頼める機能)です。工程1でもらった英語の指示文6本を、1本ずつではなく一括で送信——あとは6場面ぶんの画像ができあがるのを待って、保存しただけでした。ここで大事なコツをひとつ——「同じ人物・同じ部屋で6場面」と、最初にまとめて指定することです。1枚ずつバラバラに頼むと、場面ごとに別人が現れてしまいます。今回は設計図の段階で、この指定が織り込み済みでした。
同じGrokには、1枚の画像を短い動画に変える機能もあります。「カーテンがかすかに揺れる」といった動きの指示を添えて、こちらもエージェントに6枚ぶん一括で依頼。それぞれ10秒の動画になって返ってきました。止まっていた写真の中で光が移ろい、髪が揺れはじめた瞬間は、正直ちょっと感動します。
「まず、口からゆっくり、息を吐き切ります。」——こうした台本の文を、Google の読み上げAI(Gemini TTS)で音声にしました。このツール、私は存在すら知らず、Claude Codeに「ナレーションはどう作るの?」と聞いて教えてもらったものです。初期設定も、聞きながらそのまま済ませました。落ち着いた女性の声を選んでいます。
動画6本、ナレーション6本、そしてBGM。これらを渡すと、工程1から付き合ってくれているClaude Codeが、つなぎ・音量調整・書き出しまで自動でやってくれました。BGMは以前Sunoという作曲AIで作っておいたアコースティックギターの曲を、控えめな音量で敷いています。仕上がりは、ナレーションぴったりの60秒でした。
ここまでで、かかった日数は1日。作業の大半は「待ち時間」と「AIとのおしゃべり」です。
正直に書く、失敗の記録
……とはいえ、一発でスルッとできたわけではありません。むしろこの失敗リストこそが、これから試す方への最大のお土産だと思うので、隠さず書きます。
読み上げAIの音声で、冒頭の「イライラしたとき」のアクセントだけが不自然でした。ひらがなに直してもだめ、句読点を動かしてもだめ。最終的に効いたのは、文の形を変えることでした。「イライラが止まらないとき」に言い換えたら、一度で自然に読んでくれたんです。おまけに、言葉としてもこちらの方が波の苦しさに近くて、怪我の功名でした。
「これを3回。」のカットだけ音声がやけに長いと思ったら、同じ文をまるまる2回読んでいました。読み上げAIは、短い文でたまにこれをやるようです。指示文に「テキストは一度だけ読み、繰り返さないでください」と一行足して再生成したら解消。音声は作ったらまず秒数を見る、が教訓です。長すぎたら疑ってください。
深呼吸の動画なので「胸がゆっくり上下する」と動きを指示したら、安全フィルターに引っかかって生成できませんでした。動画生成AIは、体の部位を指す英単語(chestなど)に敏感です。では、と「手がかすかに動く」に変えたら——胸に手を当てていた女性が、すっと手を挙げて挙手。元の画像の姿勢と矛盾する指示は、別の動作に化けるんですね。最終的な正解はシンプルで、人物は動かさず、まわりだけ動かすこと。カーテン、髪、観葉植物の葉、差し込む光。場面ごとに動かすものを変えると、静かなまま、ちゃんと生きている映像になります。呼吸の動画には、結果的にこれが一番合っていました。
- 最初の作品は「1分」にする。素材6個で足りるので、失敗してもすべて作り直せます。
- ツール選びで悩まない。「何を作りたいか」をAIに話せば、必要な道具はAIが教えてくれます。私はそれで読み上げAIを知りました。
- 静かな動画ほど、人物を動かさない。動きは背景に任せると上品に仕上がります。
- 音声は秒数チェック、映像は元画像の姿勢チェック。この2つで失敗の大半は防げます。
- 直らない発音は、文を変える。表記と戦うより早くて、文章まで良くなることがあります。
今回の中心になった Claude Code は、名前のとおり本来はプログラミング用のAIです。でもコードを書いたのはAIで、私は日本語で話していただけでした。そしてChatGPTにも「Codex」という同じタイプのツールがあります。相談から実作業までしてくれる点は共通なので、いま契約しているAIのままで、今日から同じことができます。実際、今回も途中まで画像はChatGPT側でも作って、見比べてから選びました。
おわりに
動画を作り終えて気づいたのは、AIに任せられない仕事がひとつだけ残る、ということでした。「誰の、どんな瞬間に届けたいか」を決めることです。今回なら「波が来て苦しい、あの数分間」。そこさえ決まれば、画も声も音楽も、AIが揃えてくれます。
あなたの中にも「こういうものがあれば、あの人が少し楽になるのに」という種があるなら、試しにAIへこう話しかけてみてください。「1分の動画を作りたい。何から始めればいい?」——私と同じところから始まります。
🌿 波が来たときの、もうひとつのお守り
cocoro.tokyo では、依存・習慣からの回復を支える無料アプリを公開しています。記録を続けるだけでなく、つらい波が来た瞬間に開ける「緊急時のヒント」を各アプリに入れています。今日の深呼吸動画と、どうぞ合わせて使ってください。
今日も、深く吸って、長く吐く。1分だけ、自分の味方でいてあげてください。
― petit-lily / cocoro.tokyo

コメント